29歳チェリーボーイの相談に乗っていたら、実は私はAV女優だということが判明した。《プロフェッショナル・ゼミ》
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記事:市岡弥恵(プロフェッショナル・ゼミ)
「僕、実はチェリーなんです……」
はて、どうしようか。
目の前に座っている20代の男の子が、私にこう告白を始めた。
彼とは、大学時代に通っていた英会話教室で知り合った。以来この男の子は、忘れた頃に連絡をしてきて、自分の近況をツラツラと報告し、そしてまた数ヶ月、いや数年連絡が来なくなる。なんとも、不思議な男の子だ。
そして先週、彼は久しぶりに、また連絡を寄越してきた。
どうやら私は、姉とでも思われているんだろう。そう思い、彼から連絡が来れば極力会い、「そうかい、そうかい」と話を聞くことにしている。
しかし、今回はまた大胆な告白を。
はて、どうしたものか。何から聞いたらいいんだろうか。
普通にイケメンだし背も高いし、確か出会った当時も、彼には彼女がいたはずだ。いや、これまでだって、常に彼女の話が出ていた。
モテないはずはないんだ。ジャニーズにでも入れそうな顔をしているのに。
私は、どんどん、理由がよく分からなくなってくる。
しかもだ。
私を驚かせたのは、これが一番大きい理由だ。
「えーと……。あんた今AV作ってる会社で働いとるよね?」
「はい、そうです。毎日毎日ビデオにモザイクをかけています」
これだ。
彼は、大学を卒業して大手メーカーに入社した。確か五年ぐらいは働いていたはずだ。それなのに、なぜか突然、AVを作る会社で働き始めたのだ……。年収ランキングとかで毎回10位以内に入るような大手メーカーに入社できたのにだ。
ねぇ? 不思議でしょう?
そのくせ、チェリーだと言われて、どんなリアクションが正解なのか分からない。
まぁ、いいや、とりあえず話を聞こう。
「で? チェリーがどうした?」
「だから、チェリーなんですよ……。僕もう29歳なんですけど……」
「うん、知ってる。それで? 困ってんの……?」
「僕、もうすぐ彼女が出来そうなんです……」
「お、おう。いや、今までも居たじゃん? なぜ、チェリー?」
しかもだ。
この、歴代彼女というのが、これまた揃いも揃って可愛い子だった。アイドル系の可愛い子から、井川遥系の美女まで。
「居たんですけど、恥ずかしくて……」
あぁ、もう! ほんっと、あんたは!
「毎日、人のセックスシーンにモザイクをかけている君が、恥ずかしい?!」
私は、たまらず言ってしまった。正直、この男の頭をはたきたい……。
「恥ずかしい……です。だって、下手だって思われたら嫌じゃないですか……」
「そっち?! プライド?!」
「ごめんなさい……自分で言うのも、とても嫌な奴だと思われると思うんですが……」
「うんうん、なになに?」
「僕、イケメンらしくて」
「うん、イケメンだよ。それは、みんな知ってるよ」
「だから、昔から何でもできなくちゃいけないというか……野球もサッカーもバスケも何でも格好よくできなくちゃいけなくて……」
あぁ、なるほど。
どこのクラスにも居たなぁ、こういう男子。カッコよくて運動神経も良くて、女子に優しい。バレンタインには一杯チョコレートもらって、運動部だったらファンクラブが出来たりして。しかも、高校の時とか、他の女子校の生徒が、夕方練習見に来てたりして。
そうか、周りの期待に応えようと必死だったのか……。
「だから、セックスも上手くないといけないと思った?」
「そう! そうです! だって、下手だったら女性も嫌ですよね?!」
「……いや……嫌?……うーん、嫌……というか、ガッカリする……かもしれん……」
女性のみなさん……。
どうでしょう? この場合、私どう答えるのが正解だったでしょう……。
「ほら! 嫌ですよね?! しかもチェリーって聞いたら引きますよね?!」
「うーん、引くというか……。その顔でAV作ってて、しかもチェリーという事実に驚いただけ……」
「それでですね、やえちゃん」
この子は、私に敬語を使うくせに、「やえちゃん」と呼んでくる。しかも、こうやって可愛い顔して言ってくる時は、なんか企んでいる。
「いや、聞きたくない。なんか、企んでる」
とりあえず、殴る準備をしておこうか。
「やえちゃん、僕とセックスしませんか?!」
ばふっ!
とりあえず手元のおしぼりを投げつけた。
「アホか!!」
「そこを、なんとか! マジで、お願いします!」
「無理!」
「いや、だから、やえちゃん、おっぱい小さ……」
ぼこっ!
私は、ためらいなく、テーブルの下で、こいつの脛を蹴ってやった。なんだそれ。今この会話の流れで、私の貧乳は関係ないはずだ。
「いや、それに、なんかエロいやつ書いてるし!」
「はぁ?!」
「ほら、Facebookでシェアしてるし!」
私は、愕然とした。
確かに、この天狼院書店の『ライティング・ゼミ』に通い出し、私は恋愛系の記事を数本書いてきた。
しかも、この『ライティング・ゼミ』が終了し、『プロフェッショナル・ゼミ』に入ってからは、ひたすら恋愛だ。
なぜなら、店主の三浦さんから「悲恋を書くのが向いている」と言ってもらったからだ。青春時代のトキメク系の恋愛じゃなく、大人の恋愛。いっつも、悲しいやつ。しかも、ちょいエロ出し。
実は、自分でも恋愛系の話を書くのが楽しい。正直、キュンキュンする話を書きたいと思ったこともある。しかし、どうも書き方がよく分からないのだ。というのも、過去の恋愛を振り返っても、圧倒的に悲しい、痛い恋愛が多いのだ。だから、キュンキュンする話を書こうと思っても、感情がそこについていかない。男に浮気されて辛い気持ちは、サラサラ、サラサラサラ〜と書けるのに、キュンキュンとなると、ピタリと気持ちが湧いてこなくなる。だから結局、痛い恋愛の話ばかり書いている。
それに、店主の三浦さんがもう一つお言葉をくださった。
「女性の共感を得られると思います」
なるほど、そうなのか!
私はバカの一つ覚えみたいに、この言葉に支えられてきた。正直に言うと、悲しい恋愛ばかり書いていると、気持ちが落ち込む。毎回、一つの話を書き終えるたびに、一つの恋愛が終わってしまう。書いているときは、徹底的にその文章の中に感情が入ってしまう私は、毎回書き終わるたびに、ぐったりと消耗する。楽しい反面、消耗するのだ。
しかし私は、三浦さんの言葉が嬉しかった。それに、記事を書くたびに、女性の皆様からいただくメッセージがすごく嬉しかった。正直、こんなことを書いて、誰の得になっているんだろう? と不安になる時がある。自分でも馬鹿らしくなるほどの、この恋愛体質の私の過去。周りから、「やめとけばいい」と言われる男と付き合ってしまう私の性分。どう考えたって、痛い女だ。
それなのに、三浦さんが仰ってくださったように、私の経験に共感をし、そしてなぜか「すっと気持ち良くなる」なんて感想まで頂けるようになったのだ。
それなのにだ。
それなのに、なぜ私は今、この29歳のチェリーボーイから、セックスをしてくれと頼まれているのだ!!
「ねー、私が書いたものを読んで、私の事をどう思ってる?」
「エロい。遊んでる。貧乳」
えーーーーーーーー!!
ちょっと、待って! それは、超衝撃的事実だ。私は、完全にセルフブランディングを間違っているじゃないか!!
だって、あと1ヶ月ぐらいで32歳になるのに独身で、しかも彼氏も居ない。むしろ、彼氏絶賛募集中の私なのに、「エロい。遊んでる。貧乳」て! そりゃ、彼氏もできんわ!
私は、頭がガンガンしてきた。
いや、そんな効果は望んでいなかったぞ、私は。せっかく、女性の皆様に共感してもらえる文章が書けるようになったのに、完全に男性からはダメなイメージを持たれてしまっているじゃないか。
「ちょっと待って……。仮にだよ。仮に私が、エロい・遊んでる・貧乳だと思われているとしてよ……。それで、なぜ私にセックスをしろと……」
もう、正直このチェリーボーイの悩みなんか、どうでも良くなってきているのだが、なんとか最後まで話は聞いてみよう。
「だって、あんな風に書けるってAV女優と似たところがあると思うんですよ」
「はぁ?!」
「だから、あーゆー、エロいシーンってやっぱり経験しないと書けないでしょ?」
「まぁ、そうだね……私そんなに妄想力ないから、私の場合はそうだね……」
「ほら、ということはですよ。AV女優の場合は、自分の体をそのまま映像に出して男性にサービスしているんですよ。普通見せないじゃないですか、自分のセックスシーンとか。でも、彼女たちはそれで表現してるんですよ。あっAV見たことあります? それで、やえちゃんは、文字でサービスしてて。あ、言ってる意味分かります?」
なんなんだ、こいつは……。
どさくさに紛れて、今すごいこと言いやがったぞ……。私はAV女優?!
いや、しかし、妙に説得力があるじゃないか……。
なるほど……。
彼には、私がそう見えていたのか……。
私は、文字で自分のセックスシーンを晒しているのか。
いや、確かに言われてみればそうじゃないか。大抵私の書くものは「経験」に基づいているんだ。「経験」したからこそ湧いてくる感情を糧にして、書いてきた。このチェリーボーイが言うように、私は完全に自分の事を包み隠さず文字にしてしまっている。
そうか、AV女優なのか私は……。
私はAV女優のように、男性陣が性欲の湧くような体型をしていないが、しかし表現しているものは同じなのか……。男性から見れば……。
「うん、なんとなく分かった……それで? 私がAV女優だとしてよ。それが、あんたとセックスをする理由になるのか? つーか、あんたAV女優にお願いすればいいじゃん!」
「いや、僕はAV女優にモザイクかけているだけですもん! 現場には行かないし!」
「だから?!」
「それに、全然知らない人とって無理ですよ!」
「そんで?!」
私はイライラしてきた。
「でも、やえちゃん昔から知ってるし。それに、やえちゃん自分のことさらけ出してるし。僕がチェリーでも、やえちゃんなら笑わないでいてくれるかと……」
え? 何? 笑われたくなかったの? 彼女から笑われるのが怖いのか、このチェリーボーイは……?
なんだ、そういうことか……。
「ねぇ、抱きたかったんでしょ? 今までの彼女のことも」
「いや、まぁ、そりゃ……。ただ、もうこの歳まで経験してこなかったので、もう何をきっかけに勇気が出てくるのか……」
「別に笑わないって、誰も。本気で好きだったら、抱かれたいって思うよ女は……」
ねぇ、そう思いません? 女性の皆さま。
「そんなもんですか?」
「いやね、チェリーを捨てたいだけなら、風俗に行けばいいじゃんって言おうとしてたの。私に頼むよりも、全然そっちの方が簡単じゃん。だってチェリーだって言わなくてもいいし」
「いや、風俗は……僕はそういうのじゃ……」
「だから、好きな人としたいんでしょ?」
「はい」
「で、あんた私のことは好きじゃないよね? あんた背中押して欲しかっただけなんでしょ?」
ねぇ、そういうことだよね?
こうやって、包み隠さず過去の恋愛をさらけ出している私だから、チェリーだって言えたんだよね?
興味本位でもなんでもなくて、ただ本気で、もうすぐ彼女になるであろう、その女の子の事、好きなんだよね。
だったら、言う。
こうして、日本中に自分の恋愛をさらけ出している私だから言う。
こんな記事ばかり書いているから、男性からは「エロい。遊んでる。貧乳」と思われているかもしれない。誰とでもセックスするような女に見えているかもしれない。
でもね、違うんだよ。
「あのね。誰でもいいって訳じゃないんだよ。男だったら誰でもいいなんて、思ってない。女ってね、自分が好きな人に抱いて欲しいの。好きだから抱いて欲しい。好きだからギュってされたい。愛してるって言葉よりも、ギュってされたい。だから、もうそんなプライド捨ててよ。イケメンだからって何だよ。チェリーだからって何だよ。私だったら、チェリーでも好きになった男に抱かれたいよ。つーか、抱けよ、アホ」
その後、彼がどうなったかは知らない。
先週会って以来、連絡は来てない。まぁ、いつもの事だから別にいいんだけど。本当のところ、彼が今までどれだけ悩んできたかなんて、全然分かってあげれてないと思う。全然、相談になんて乗れてない。
でも、気づいてくれていればいいなって思う。こんな事しか書けない私だから、女が男を好きになった時の気持ちは、さっき言った事で間違いない。はず……。
いやー、しかし私がAV女優だったとは。
あれ、そういえば、なんであいつはAV作る会社に入ったんだっけな?
まぁ、いいか。今度また聞いてみよう。
ライティングって、ほんっと色んな事に気付くなぁ……。
***
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